事例-13

平成20年9月

 後継者不在・高齢・健康不安となった、横浜市内の理容業を営むA氏(個人事業主)が、首都圏に拠点店舗を探していた地方チェーン店に、その主力店舗を事業譲渡しました。

 A氏(83才/横浜市内)は、50年以上前に自宅で理容師である妻と理容業を開業、その後(約40年前)JR駅前に支店を開きました。直近も、個人事業ながら2店舗で従業員10名を雇用していましたが、2人いる子息はそれぞれ異なった仕事についており後継者不在の状態でした。また、A氏は80歳で癌を宣告され、また腰椎骨折により本年2月以降入院生活にありました。
 一方B社は、既に北海道で理・美容店80店舗以上を展開、事業拡大のため首都圏進出の拠点となる店舗を探しており、昨年、東京/池袋に美容院を取得した実績がありました。
 A氏の復帰が難しいことが明らかになってきた本年5月下旬、A氏没後の『事業存続』と『従業員に対する責任』を憂えた妻と次男が「主力店舗である駅前支店を従業員(8名)ともに引受けてくれる相手を探したい。」意向であることが確認できたため、その旨をB社に打診しました。
 B社では、横浜市内JR駅前という好立地・40年の業歴に伴う固定客・減少傾向ながら採算点以上の売上を維持していることを評価し、譲受けを積極的に希望することになりました。
 A氏本人は、当初過去に賃貸借トラブルを経験したこともあり、事業譲渡(店舗賃貸)に難色を示していましたが、1.従業員の継続雇用 2.営業方針の継続 3.既存設備の引き取り、という条件にB社が同意したこと。また逆に「店名をそのまま使用させてほしい」との要望を受けたこと等により、最終的に譲渡を了解しました。
 B社が遠方であるため両者の面談回数は少なかったものの、その後の協議は順調に進み、9月末日に譲渡契約が成立しました。

 本件は、後継者不在・事業主の高齢化と承継対策遅れという、現在の中小企業が抱える問題を象徴的に含んでいました。運良く短期間で譲渡相手が見つかり成約に至りましたが、「譲渡の決断が更に遅れていたら」また「譲渡相手を探すのに時間がかかっていたら」手遅れになった可能性も十分にあり、あらためて“早めの事業承継対策”の必要性を感じさせられました。
 また、小・零細事業でも、相手にとって魅力のある条件があれば譲渡可能であることを示した好事例でもありました。