事例-16

平成21年9月

平成20年秋からの不況により後継者難に苦しむ企業が清算手続を予定していましたが、事業の強みを活かしたことで、株式譲渡形式のM&Aによる事業承継が成約しました。

(1)被買収企業甲社の強みと弱み
 甲社は、A氏が十数年前に脱サラ後に設立した会社です。事業内容は主にセキュリティ分野の部品製造でした。事業は堅調に推移し、財務状況は安定していました。A氏は部品の心臓部分について特許を取得しており、競合他社の進出を防止する強みがありました。
 一方、折からの不況で売上が減少傾向にあり、A氏に後継者がおらず、長期にわたりメンテナンスが必要な業種であることから事業を止められない弱みがありました。
(2)被買収企業甲社代表取締役A氏の葛藤
 A氏は特許を取得した製品をもって、甲社の事業拡大を夢見ておりましが、自身の高齢が原因で資金調達を躊躇し、事業拡大に伴うリスクを取れませんでした。攻めの経営に出たいのに出られない、ここにA氏の葛藤がありました。
(3)買収企業が見つからない現実
 (本成約時から)2年前に当相談室へ事業承継の相談がありました。甲社は財務内容も安定し、販売製品も特許で守られていることで、買収企業がすぐに見つかると思われました。しかし、A氏に事業ノウハウが集中していることが原因で、なかなか甲社の買収企業が見つかりませんでした。
(4)乙社が甲社の事業承継を受けた理由
 今回、甲社を買収した乙社の業種は、自動車部品製造・据付です。現状、乙社の財務状況は良好ですが、事業分野の先行きについて真剣な議論を重ね、M&Aによる多角化戦略を志向することになりました。乙社社長B氏は、以前から日本社会の安全性の考え方に対する強い危機感を覚え、セキュリティ分野の進出は有望であると判断しました。さらに甲社が乙社の遊休不動産を活用することで、甲社の家賃節約と甲乙社間で経営の地理的集中化を図ることができました。
(5)攻めの経営に転じる機会
 A氏が事業のノウハウを自身で持っていたことから、A氏が甲社に残り、乙社は資金を捻出することで、甲社の経営を承継することとなりました。代表取締役は乙社の代表取締役が就任し、A氏は部長として若い人に仕事のノウハウを教えることになりました。
 A氏は今、自分の創業した甲社のために思う存分腕を振るっております。そして今、甲社は攻めの経営に転じる機会を得ることができました。